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ヒューマンファクター (部分的自動化の問題)

ヒューマンファクターの分野では、「部分的自動化の問題」が詳細に検討されている。まず部分的であるがゆえにオペレータは対象系の全体像を喪失する。これは、自動化できない難しい操作だけがオペレー タに委ねられることとあいまって、さらに操作を困難にする。さらに自動化は、オペレータのタスクを操作から監視に変容させ、OJT (On the Job Training) の機会を奪う。これは、オペレータのモチベーション低下とスキル低下がお互いを促進させあってしまう、いわば負のフィードフォワードループを形成する。さらに故障時の自動補償は、故障の顕在化を遅らせ、OJT 機会減少とあいまって正確で迅速な状況認識を困難にする。このようなシナリオが、近年の大型事故の分析結果によく見られる [片井98]。

この「部分的自動化」の問題を解消する一つの方策は、「部分的」であることを問題の元凶として伝統的なシステム論的アプローチをさらに進め、完全で誤りのない自動化をめざすことであろう。しかしこのアプローチは、「対象系を 閉じたものと仮定して系外のエネルギーや情報は外乱として無視するかできる限り統御する」という考えに基づく。この場合、「果たしてオペレータを含めて閉じた系を仮定し得るのか?」という問いには希望的観測で答えざるを得な い。
これに対して、不便益のシステム論は、不便益という視座からどのようなモノを作るべきか、いわば「 中途半端ではなく中庸である解」を示す指針を得ようとするものである。

一方、不便益のシステム論は、安易な「自動化」こそ問題の元凶であるとして、この問題解消のもう一つの方法を模索する試みでもある。不便益で知られる「能動的工夫の余地」、「対象系の物理的理解の促進」、「自己肯定感」は、上述のようにヒューマンファクターの分野における重要な検討課題であり、単に「昔の不便な操作に戻せ」と主張するのではなく、不便益を足がかりに今後のモノづくりの方向性を示すシステム設計方法論が必要になる。

[片井98] 片井修: 人間とシステムの関わり合いと知的支援 –チュートリアル–, 人工知能学会誌, vol.13, no.3, pp.339-346 (1998)