不便益システム研究所

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ブリコラージュ

「不便益」として想定している「能動的工夫・対象系理解・自分肯定」は、いずれも道具を使用する本人にとってのものである。これに対して、第三者による対象系理解も 不便益の一つと数えたい。

技能継承

人材育成方法として多くの企業で採用される OJT (on the job training) では、見習い技術者は技能に習熟するために熟練者の作業場面をよく観察しなければならない。しかし現場では、効率化のための過度の分業化やIT化がその機会を奪っている。また、機械の高度化やディジタル化も「手間」が省かれる効率化という側面から歓迎される一方、操作のブラックボックス化がOJTの機会を奪い、かえって後進の指導に「手間」が増えたと言われる。

ここでは、作業プロセスの可視化、すなわち手間を惜しまずに見せることが第三者による対象系理解の促進につながる場面として、プロカメラマンによる撮影現場を観察する。この時、機能特化された便利な道具ではなく、効率化という視点からは不便な道具の使用が果たす役割に注目する。

ブリコラージュ

レンズ付きカメラのような「撮影」機能に特化した道具は、導入の敷居が低い。逆にスヌートのような専用機能に特化した道具は、不慣れな者には何のためにあるのかさえ分からない。一方、プロのカメラマンにしてみれば、機能特化された道具は融通が利かずかえって使いにくい。むしろ、撮影には無関係な汎用道具を工夫して同等の機能を発揮させる柔軟さこそプロらしさとも言える。この工夫の手間に、行為意図を伝達する情報媒介性が観察される。このような工夫は、ブリコラージュ[Levi-Strauss76]の事例に数えることができる。

チャネル理論による説明

このような定量的には推し量りにくい、しかも有効さや効率とは異なる評価軸の上で「手間」の可視化が果たす役割りを、定性的情報理論とも呼ばれる「チャネル理論」を用いて説明した[塩瀬06]。 そこでは、熟練者と見習いの二人がそれぞれ想定するライティング効果の分類域から、チャネルの核となる道具操作の分類域へ情報同型写像が 設定される。

[Levi-Strauss76] C. Levi-Strauss: 野生の思考; みすず書房 (1976)
[塩瀬06] 塩瀬、本吉、戸田、川上、片井: 手間の可視化が技能継承にはたす役割の理論的分析; ヒューマンインタフェース学会論文誌, vo.8, no.4, pp.487-496 (20